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油浸系対物レンズの使用方法

生物顕微鏡や位相差顕微鏡などでは、一般的に観察に用いられる乾燥系レンズのほか、対物100倍等の高倍率においては油浸用オイルを使用する油浸系対物レンズがあります。

乾燥系レンズと違い、サンプルを設置してピントを合わせるといった通常の操作のほか、レンズとサンプル観察面との間を専用のオイルで満たす必要があり、オイルを使用しない状態では正常に観察が出来ません。

本記事では、一般的な油浸系対物レンズの使用方法について解説していきます。

乾燥系対物レンズと油浸系対物レンズの違い

乾燥系対物レンズと油浸系対物レンズの違いについて、大きく分けると「より高倍率・高分解能での観察においては油浸系対物レンズが優れている」ということになります。

ただし、油浸系対物レンズは乾燥系対物レンズでは観察できない微小な点を観察・判別できますが、対物レンズ⇔サンプル(カバーグラス)間を専用のオイルで満たす必要があり、乾燥系対物レンズに比べて使用前・使用後の手間がかかります。

対物レンズ開口数と分解能について

顕微鏡観察などにおいて、より細かいものが見える・判別できることを「分解能が小さい(≒解像力が大きい)」と言います。

分解能とは「近接している2つの点が離れているかどうかを判別可能な距離」であり、2点の間隔が微小であればあるほど判別には優れた性能が必要です。
そのため、分解能は「小さい」方が性能が高い、ということになります。

顕微鏡において、分解能の大小を決定するのが対物レンズの開口数(N.A.)というパラメータで、この開口数の数値が大きければ大きいほど分解能に優れていることになります。

分解能を求める計算式は以下のとおりです。

レイリーの分解能 ※可視光観察の場合、波長は550㎚とする

媒質による分解能の違いについて

開口数は対物レンズ先端とサンプル観察面との距離(=作業距離)が短く、レンズ径が大きくなるほど大きくなり、対物レンズ⇔サンプル間に存在する媒質の屈折率(n)が上限値となります。

媒質が空気の場合の屈折率はn=1となり、開口数の上限は1(実際には0.95)となります。

カバーグラスと空気の屈折率が異なるため、境目(A)で屈折が起こり、開口角が制限される

前述の計算式にあてはめた場合の分解能は0.61×550÷0.95≒353㎚(0.353㎛)となり、乾燥系対物レンズの理論上の分解能上限は2点間の距離0.353㎛となります。

2点間が0.353㎛以上離れている場合、それが「2つの点である」と判別できる

これに対し、油浸系対物レンズの媒質は空気ではなくオイルであり、使用するオイルとカバーグラスの屈折率が同じn=1.515であるため媒質とガラスの境目での屈折が生じず、広い開口角が得られます。これにより、乾燥系対物レンズよりも開口数の上限値が高くなっています(開口数上限:1.45)。

カバーグラスとオイルの屈折率が同一のため、境目(A’)で屈折が起こらない

計算上の分解能は0.61×550÷1.45≒231㎚(0.231㎛)となり、乾燥系対物レンズよりもさらに細かい2点の判別が可能である、ということになります。

2点間が0.231㎛以上離れている場合、それが「2つの点である」と判別できる

油浸系対物レンズの使用方法

油浸系対物レンズは以下の手順に沿って使用してください。

1. サンプルをステージにセットする

観察したいサンプル(標本)を顕微鏡のステージにセットします。
なお、油浸系対物レンズの場合はサンプルにオイルを塗布するため、カバーグラスをかけない塗抹標本などは適していません。
また、金属標本等、カバーグラスをかけずに観察するサンプルの場合、オイルの塗布自体が可能なものかどうかを事前に確認ください。

2. 高倍率の乾燥系対物レンズで焦点を調整する

対物レンズ40倍等、出来るだけ高倍率の乾燥系対物レンズを光路に入れ、焦点を調節します。

この状態で油浸系対物レンズに切り替えても、以下のように焦点の合わない像になります。

乾燥系対物レンズでの焦点調整は必須ではないですが、油浸系対物レンズでの焦点調整時の操作が容易になります。

3. レボルバを半分ずらし、イマージョンオイルをサンプルに塗布する

レボルバを少し回し、サンプル上面のスペースを空けた状態でイマージョンオイルを塗布します。

油浸系対物レンズとサンプル上面との間隔(作業距離)は非常に短いため、塗布するオイルは1滴で十分です。塗りすぎないようにご注意ください。

レイマー製品の場合、油浸系対物レンズが標準付属の顕微鏡にはイマージョンオイルが付属しています。

4. 油浸系対物レンズを光路に入れる

イマージョンオイルを塗布したら、油浸系対物レンズを光路に入れます。
この際、オイルの中に気泡が入ってしまうと観察像に影響が出てしまうため、対物レンズを左右に数回振って気泡を取り除きます。

5. 焦点を調整し、観察を行う

乾燥系対物レンズと同様、焦点を調整して観察します。

油浸系対物レンズ使用後のメンテナンス

油浸系対物レンズ使用後、何もせずに放置してしまうと塗布したオイルが固着し、場合によっては対物レンズ等が使用できなくなる恐れがあります。
使用後は必ずメンテナンスを行いましょう。

1. 対物レンズ先端のオイルを取り除く

油浸系対物レンズの先端に付着しているイマージョンオイルを取り除きます。
レンズペーパー等、柔らかく繊維残りの少ないものでレンズ先端をやさしくふき取ります。高倍率レンズは先端レンズの径が小さいものが多いため、爪楊枝の先にレンズペーパーを巻き付ける等して作業します。

先端からオイルが拭き取れたかどうかは、ルーペ等で確認できます。接眼レンズを裏返したものを拡大鏡として代用できるので、ルーペをお持ちでない場合にはお試しください。

※接眼レンズ内への異物・ホコリ等の迷入には十分ご注意ください。

2. サンプル表面のオイルを取り除く

再度観察予定のあるサンプルの場合、使用後は速やかにオイルを取り除いておきます。

サンプルにもよりますが、一般的なプレパラート等であれば、対物レンズと同様レンズペーパーなどを用いて清掃してください。

注意:オイルが残った状態で乾燥系対物レンズで観察しない

油浸系対物レンズご使用時の注意点として、最もトラブルが起こりやすいのが「乾燥系対物レンズの先端にオイルが付着してしまう」というものです。

油浸系対物レンズの使用後に清掃を行わず高倍率の乾燥系対物レンズを使用してしまう、といったケースが最も多いため、油浸系対物レンズ使用後は清掃を忘れないようご注意ください。

高倍率の対物レンズは作業距離が短いため、サンプル表面に先端レンズが近接しやすくなっています。
乾燥系対物レンズはオイル無しで観察できるように設計されているため、オイルが付着した状態では正常な観察が出来なくなります。