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高倍率の顕微鏡でより良い像を観察する方法

顕微鏡を使い始めたとき、初心者の方のハードルになるのがピント調節・焦点合わせです。

ピント調節の操作自体は顕微鏡機種により多少の違いはありますし、スムーズな調整が出来るかどうかについてはどうしても慣れが必要です。

ただ、自作した標本を観察する場合、特に位相差顕微鏡を用いた血球や細菌観察といった高倍率観察を行う場合には、操作の慣れとは異なった部分、作製した標本の良し悪しにて良い像を観察できるかどうかが変わってくるケースが往々にしてあります。

顕微鏡の倍率と被写界深度

「良い像」と言っても、具体的にどのような像が良い像と感じるかどうかに関しては、個人の主観が伴うため様々ではありますが、ピントが合っていない顕微鏡像に対しては、多くの方が好まない像であると言えると思います。

ピントが合うかどうかは顕微鏡(対物レンズ)の作業距離(ワーキングディスタンス/W.D.とも言います)に標本が設置されているかどうかで決まります。
例えば、作業距離5mmの対物レンズを使用している場合、対物レンズの先端と標本の観察面がちょうど5mm離れている位置関係で、ピントが合った像が得られます。

作業距離でよく誤解を受けるのが「作業距離5mmということは、対物レンズ~標本間が5mm以内であれば良い」というようなものですが、作業距離は「~まで」というものではなく、基本的にはちょうどその距離に設置・設定する必要があります。

また、作業距離に加え、ピントの合致に重要になるのが被写界深度(≒焦点深度)です。

これは焦点の合う深さ方向への範囲で、作業距離5mmの対物レンズで被写界深度が1mmだった場合、対物レンズ~標本間の距離が4~6mmの範囲であればピントが合い、そこから外れるほどに焦点が合わなくなります。

光学顕微鏡の場合、基本的に倍率が高くなればなるほど被写界深度は浅くなるため、低倍率対物レンズであれば容易にピントが合わせられたとしても、高倍率になったとたんにピントが合わず、良い像が得られないということが起こります。

標本の厚みと被写界深度

高倍率観察時に被写界深度が浅くなるということは、標本に厚みがあるほど全体のピントが同時に合いづらくなる、ということになります。具体的なイメージは、以下のとおりです。

標本の厚みが大きい場合

まずは標本の厚みが大きい、厚みのある標本を観察する場合です。

標本に厚みがある場合、上画像の対象物Aと対象物Bのように、溶液中の上部と下部に標本の位置が異なる状態になることがあります。

使用する対物レンズの被写界深度が上画像のような場合、対象物Aは全て含まれていますが、対象物Bは上面のみが被写界深度内に入ってはいるものの、辺縁部は外れています。

このような場合、観察像は以下のようなイメージになります。

対象物Aは全体が被写界深度内に含まれておりピントが合った状態になりますが、対象物Bは辺縁部が被写界深度から外れているため、ピントが甘くぼやけた像になります。

このように、深さ方向・高さ方向の位置が異なる対象物が混在することで、全体のピントが合っていない像になってしまうことが考えられます。

標本の厚みが小さい場合

標本の厚みが小さい(薄い)場合について見てみましょう。

溶液の深さ方向に余裕が無いため、対象物A・Bともにほぼ同じ深さに位置付けられています。

標本が薄いため、対物レンズの被写界深度内に対象物A・Bどちらもその全体が含まれます。

どちらの標本も被写界深度内に含まれるため、どの部分にもピントが合った像が得られます。

このことから、観察像を全体的にピントが合った状態にしたい場合、標本を薄く作製するよう心がけることが重要となります。

血液標本や水中・口腔内の細菌観察等、一時プレパラートを作製して観察することが多い用途の場合、標本作製時点で見え方がある程度決まってしまうこともあるため、標本の厚みには気を付けて観察を行うようにしましょう。