ビデオマイクロスコープと三眼実体顕微鏡の使い分けについて
顕微鏡下での作業や製品異物検査といった、実際の加工物や検体をそのまま観察するような場合、顕微鏡の中では比較的低倍率である実体顕微鏡が用いられます。
実体顕微鏡は英名でStereoMicroscopeと名前が付けられているとおり、両眼で左右の接眼レンズを同時に覗き込むことにより、立体視ができるという点に特徴があります。
三眼実体顕微鏡は、上記の観察効果に加え、独立したカメラ接続用ポート(三眼鏡筒部・撮影鏡筒)を持ち、顕微鏡用カメラ等を取り付けることで撮影作業にも利用できる仕様になっています。
他方で、実体顕微鏡と同程度の倍率を持つ、直筒タイプのビデオマイクロスコープも存在します。本記事では、これらの機器の使い分け、選定基準について解説します。
1. 使用用途・目的の違いから選定する
ビデオマイクロスコープと三眼実体顕微鏡の最も大きな違いは、接眼レンズでの観察ができるかどうか、という点です。
三眼実体顕微鏡は、接眼レンズで観察を行う双眼実体顕微鏡に撮影用のポートが備わった機器であるため、当然ながら接眼レンズでの観察とカメラでの撮影を同じ機器で併用できます。
接眼レンズで観察しながら必要に応じて写真を撮影したり、光路分配型の三眼実体顕微鏡であれば、顕微鏡を覗きながら行っている作業を同時にモニタリングや動画撮影を行い、共有することができます。
一方で、ビデオマイクロスコープには接眼レンズを装着して観察をする機構が備わっておらず、カメラでの映像・画像を撮影する専用の機器となります。
同程度の倍率で撮影する用途がある場合でも、同じ機器で接眼レンズでの観察が必要な場合は三眼実体顕微鏡、特に接眼レンズ観察が不要であればビデオマイクロスコープを検討すると良いでしょう。
2. 撮影像の平坦性から選定する
ビデオマイクロスコープと三眼実体顕微鏡は、機器の構造の違いから撮影像に影響を与える点があります。
三眼実体顕微鏡の対物レンズは、両眼で覗いた際に対象物が立体視できるよう、わずかに内斜しています。
三眼鏡筒部に接続したカメラが得る像は、ふたつの内斜した対物レンズが得た像をミックスするのではなく、いずれか片側のみを使用します(左右どちらを使用するかは機器によります)。
つまり、対象物が平坦である場合、撮影像の中心に比べ、左右の端に近づくほど対物レンズと標本間の距離に差異が生じることになります。
これにより、撮影した画像の左右の焦点が甘くなってしまう場合があり、撮影像全体としてのクオリティはやや低くなってしまいます(被写界深度の浅い高倍率時に目立ちやすい)。
これに対し、ビデオマイクロスコープは単眼の対物レンズが対象物と正対するため、対象物が平坦であれば、理論上同じ画像内での焦点のずれは生じません。
そのため、焦点ずれの無い、なるべく平坦性の高い撮影像を得られたい場合はビデオマイクロスコープのご利用を推奨いたします。
また、Z方向(高さ方向)に複数の画像を撮影・合成するフォーカススタッキングを利用する場合も、対物レンズが正対しているビデオマイクロスコープのほうが画像のずれが抑えられます。
1→2の順に検討・選定する
前述したとおり、ビデオマイクロスコープ・三眼実体顕微鏡のいずれにも一長一短があるため、絶対的にどちらの機器が推奨されるというものではありません。
ただし、接眼レンズでの観察が必須である場合に、ビデオマイクロスコープに接眼レンズを追加するようなことはできないため、前述した1.→2.の順で検討していただき、ご用途に合った製品を選びましょう。