光学的なズームとデジタルズームの違い
顕微鏡を使うことの目的を考えた場合、何らかの物体・対象物を拡大して観察する、ということになるかと思います。
顕微鏡は機種により様々な倍率がありますが、当然ながらいずれも通常よりも高い倍率で観察するものであり、お客様のなかにも「○○倍で観察したい」というような要望をお持ちの方も多くいらっしゃいます。
例えば実体顕微鏡LW-820Tを使って、標準仕様における最大倍率(対物4.5倍・総合45倍)よりもさらに拡大したい場合、通常は補助対物レンズ筒の光学的なオプション品を使用しますが、接続している顕微鏡用カメラ・デジタルカメラのズーム機能、いわゆるデジタルズームでの拡大で補完しようという考えがあります。
確かに、補助対物レンズを使用して倍率をさらに2倍することと、デジタルズームで2倍にした状態で、数値のうえではどちらも同じ倍率になっているように思えますが、どのような違いがあるのでしょうか。
本記事では、光学的な拡大とデジタルズームの違いについて解説していきます。
光学的な拡大(対物レンズによる拡大)のイメージ
光学的な拡大、例えば対物レンズを倍率の高いものに変更したり、ズーム型顕微鏡の光学ズームを高い値に切り換えたりするような場合、「分解能が向上、もしくは低下しない」という点がポイントとなります。
上の画像を光学的に拡大した場合、以下のように見えます。
解像度は落ちず、そのまま像が大きく見えるイメージです。
また、画像の中央部分に注目してください。
元の画像では微小すぎてただの点にしか見えなかったものが、光学的に拡大し、分解能が向上したことにより、そのディテールが確認できるようになっています。
機器やレンズの仕様によっては分解能が向上しない場合もありますが、少なくとも光学的に拡大することで解像力が低下することはありません。
デジタルズームのイメージ
デジタルズームの場合、光学的な倍率の向上を行っているのではなく、カメラのイメージセンサーの画素数を減らす(使用する範囲を狭くする)ことで画像を拡大しているため、使用する画素が減少する=解像度が低下します。また、対物レンズがつくった元の像は変化していないため、分解能は向上しません。
同じ像を拡大した場合を例にすると、
光学的な拡大と同じようなサイズで観察・撮影は可能ですが、解像力が低下しているため像が粗くなります。
また、分解能が向上していないため、低倍率時に点で見えていたものが実際に何であるか判別はできず、点のサイズが大きく見える、というだけになります。
デジタルズームはあくまでも「大きく見る」という目的に使用するものであり、「細かく見る」という用途には適さないため、光学的な拡大と混同しないように注意が必要です。
接眼レンズでの拡大・小型センサーカメラでの拡大について
光学的な拡大・デジタルズームのほかに、像を大きく観察する方法として「接眼レンズによる拡大」「センサーサイズの小さいカメラで撮影することによる拡大」があります。
これらの方法の場合、デジタルズームとは異なり画素・解像力を減少させる方法では無いため像が粗くなることはありませんが、対物レンズで作られた像が変化するものでは無いため、分解能の向上もありません。
同じ画像を拡大表示・観察した場合、以下のようなイメージになります。
解像力は低下しないため大きい像が粗くならずに観察できますが、中央の点は変わらず点のままです。
解像力の高い状態で大きく表示させたい場合や、「低倍率の接眼レンズでも観察はできるが小さくて見えづらい」といった対象物を拡大する用途には適していますが、より細かい形状等の情報を得られたい場合には不向きです。
各種拡大・ズームの使い分け
前述のとおり、拡大・ズームは同じ倍率であってもその内容により結果が大きく異なってきます。
対物レンズによる拡大はより細かな情報が得られますが、被写界深度が浅くなったり、作業距離が短くなるといったデメリットも存在します。
どの方法にも単純な良し悪しは無く、重要なのは「用途に合った方法を選ぶ」ということになります。
使い方や観察対象、使用環境に応じて、最も適切な方法をえらんで観察を行うようにしましょう。